音声ファイルのクラウドバックアップが面倒な理由
ミュージシャンはデータが多い。24ビットWAVで録ると、1セッションで数GBになることはざらだ。自宅で定期的に録っていると、1年でテイク・デモ・ライブ音源が数十GBに積み上がる。ドライブが壊れたら、それを再現する手段はない。
iCloudやGoogle Oneは手軽だが、一般ファイルや写真向けの設計だ。固定プランで容量も低め、1Takeがバックグラウンドで自動アップロードするためのAPIもない。一方、Amazon S3やWasabiといった開発者向けオブジェクトストレージはAPIこそ充実しているが、料金体系に録音ワークフローと相性の悪い特性が潜んでいる。
B2はその間にある。開発者向けAPIを持ちながら、ミュージシャンの実際の使い方に合った料金体系になっている。
B2の料金体系
2026年3月時点のBackblaze B2の料金:
- ストレージ:1GBあたり月$0.006(1TBあたり月$6)。2026年5月1日より$0.00695/GB($6.95/TB)に値上げ予定。
- 最初の10GB:無料。クレジットカード登録不要。
- アップロード:完全無料。B2へのデータ送信には一切課金されない。
- ダウンロード:平均保存データ量の3倍まで毎月無料。超過分は$0.01/GB。
- APIコール:Class A(アップロード・作成)は常に無料。Class BとCは1日2,500回まで無料(2026年5月より完全無料化予定)。
録音バックアップで一番大事な数字:アップロードは$0。WAVファイルも、テイクも、セッションまるごとも、B2に届けるたびに請求は発生しない。支払うのはストレージの実使用量だけだ。
コスト比較
月10GBの音声を録音するミュージシャンを想定した試算。WAVでの自宅録音なら現実的な量だ。
| サービス | 初年度コスト(概算) | アップロード料金 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Backblaze B2 | ~$4〜5 | 無料 | 最初の10GBは無料。それ以降はストレージ使用量のみ課金 |
| Amazon S3 | ~$18〜20 | 無料 | ストレージ$0.023/GBはB2の約4倍 |
| Wasabi | ~$84 | 無料 | 1TB最低課金あり(10GBしか使わなくても月$6.99) |
| Google One 100GB | $35.88 | なし | コンシューマー向け。自動バックアップ用APIなし |
| iCloud 50GB | $11.88 | なし | 上限50GB。外部APIアクセス不可 |
Wasabiの$84という数字、少し説明が要る。Wasabiは1TBあたり月$6.99と宣伝しているが、10GBしか保存していなくても1TB分が課金される。さらにファイルごとに90日間の最低保存期間ポリシーがあって、1日で削除しても90日分の料金がかかる。ゆっくり積み上がるオーディオアーカイブには、見た目より実際のコストがずっと高くなる。
S3に最低課金はないが、$0.023/GBはB2の約4倍だ。年末に120GBのアーカイブになった場合、S3で月約$2.76、B2なら月$0.72になる。
アップロードパターンが料金を左右する
クラウドストレージの料金設計は「データを頻繁にダウンロードする」前提で作られている。録音バックアップはその逆だ。
セッションごとにアップロードするが、ダウンロードはほとんどしない。ファイルが戻ってくるのは、ドライブが壊れたとき、PCを乗り換えるとき、リモートのプロデューサーとステムを共有するときくらい。年に数回あればいい方だ。
B2の無料ダウンロード枠は平均保存データ量の3倍。120GBのアーカイブなら毎月360GBまで無料になる。アーカイブ全体をリストアするというシナリオでも、無料枠の3分の1しか使わない。バックアップ目的でこの枠を超えることは、まず考えにくい。
データ耐久性
Backblazeが公表するデータ耐久性は99.999999999%(イレブンナイン)。Amazon S3と同じ数値だ。アーキテクチャは違うが、結果は同じ。ハードウェア障害でファイルを失う可能性は統計的にほぼゼロだ。
Backblazeはこれを「Vault」アーキテクチャで実現している。Reed-Solomonイレイジャーコーディングで各ファイルを20台のストレージポッドに分散保存する。複数のポッドが同時に死んでも、すべてのファイルを再構築できる。
コンシューマー向けHDDの年間故障率は1〜3%。ローカルドライブだけに頼っていると、複数コピーがあっても数年単位で確率が積み上がる。B2でクラウドバックアップを持てば、そのリスクはなくなる。コストは同じ期間のHDD交換費用を下回る。
初年度のリアルな数字
月10GBを録音し、何も削除しない場合のコスト:
- 1ヶ月目:保存量10GB — $0(無料枠内)
- 2ヶ月目:保存量20GB — 月$0.06
- 6ヶ月目:保存量60GB — 月$0.30
- 12ヶ月目:保存量120GB — 月$0.66
- 初年度合計:約$4〜5
この期間のアップロードはすべて無料。別のマシンでミックスするためにダウンロードしても、通年で無料枠を超えることはないだろう。
2026年5月以降は$0.00695/GBに上がるので、同じシナリオで初年度は約$4.50〜5.50になる。それでも$5.50以下だ。
1TakeでのB2連携
1Take v1.4で、Cloud SyncにBackblaze B2を追加した。設定に必要なのはB2のApplication Key ID、Application Key、バケット名の3つ。バケット内のパスプレフィックスで、ファイルの整理もできる。
設定後は以下がすべて自動で動く:
- 録音停止直後に各ファイルがキューに入る。
- Wi-Fi経由でバックグラウンドアップロード(設定でモバイルデータ通信も許可可能)。
- 接続切断やB2の一時障害でアップロードが失敗した場合は自動リトライ。リトライ上限と間隔は設定で変更できる。
- すべてのアップロード試行がログに残るので、何がバックアップ済みで何が保留中かをいつでも確認できる。
B2連携は無料プランを含む全ユーザーが使える。1Takeからの追加料金はない。
B2アカウントの作り方
アカウントはbackblaze.comから作成できる。最初の10GBはクレジットカード登録なしで無料。1TakeからAPIを使うには、バケットへの読み書き権限を持つApplication Keyを作る必要がある。B2のダッシュボードから2分もあれば終わる。
まとめ
よく録音する人で、自動・オフサイト・コスト低め、という条件でAPIありのサービスを調べると、B2が一番まとまりが良かった。アップロード無料は録音ワークフローと素直に合う。無料ストレージ枠は軽い利用ならそのままカバーする。耐久性はS3と同水準で、価格はその4分の1以下だ。
今ローカルドライブだけ、あるいは容量が限られたコンシューマープランで管理しているなら、1TakeのCloud SyncでB2を設定するのが一番手っ取り早い改善になると思う。